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書いた記事数:51 最後に更新した日:2017/06/20

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楽しい映画と美しいオペラ――その72

女性性とはなんだろうと考えた――荻上直子『彼らが本気で編むときは、』

 

 

映画の上映時間の2時間余、左隣の中年女性の手には、ずっと白いハンケチが握りしめられていた。しばしばそれで目頭を拭う。その動作に影響を受けたわけではないけれども、私の眼も、終始潤みがちであった。年を重ねて涙もろくなっているとはいえ、やはり稀な体験といわねばならない。

 

トランスジェンダーの元男性、リンコの日常をたんたんと描いた映画で、人の感情を大きく刺激することを企図した映画では決してない。しかしながらその日常は、彼らが静かに生きようとすることをなかなか許してはくれない。異質なものを排除しようというありがちな人間の特性が、性的マイノリティに対してとりわけ顕著になる。

 

リンコの母親は、ある日、中学生の彼にブラジャーのプレゼントをする。毛糸で編んだふたつの乳房とともに。リンコ(当時はリンタロウ)は涙を流して喜ぶ。母親がいかにして彼の性向に気づき、それを受け止め、支えようとしたか。この辺の事情は省略されているが、この場面はまことに感動的であった。他者を理解し、共感することの大切さ。これこそこの映画のテーマである。

 

リンコは性転換手術を受け、ホルモン療法で乳房もつくる。女性であろうとする心は、身体からも女性になろうとする。「女性性」はもちろん文化の影響を受ける。乳房、ブラジャー、タイトルにも援用されている編み物、これらは現代に於ける女性性の象徴だろう。それでは、普遍的な意味での女性性は存在するのか。

 

性差は個人差に比べればとるにたらないものだ。この考え方からすれば、女性性など考慮に値する概念ではないのだろう。青木やよひは女性性を重視したことで、性差極大論者のレッテルを貼られて、フェミニズムの論壇から排除された。LGBTなど性的マイノリティが社会的にも認知されるにつれて、性差とは何かの議論も深まりつつあるように思われる。

 

2月27日、NHKBSプレミアムで「マエストラ――指揮台への長い旅」という番組が放映された。オーケストラの指揮界は圧倒的に男性優位の世界である。この番組は、そのなかで成功を収めた、数少ない女性指揮者たちを描いたドイツのドキュメンタリーで、女性性を考えるいい材料を提供してくれた。以下、ふたりの女性音楽家の発言を引用しよう。

 

「基本的には音楽には男も女もありません。しかし女は男とは少し違う個性を持っています。その少しの違いを表現することが大切です。考え方が違うから曲の解釈も変わります。甘く優しい音楽になるということではなく、考え方の違いが出るのです。そこが面白い点ですね」(女性指揮者の草分け、スイスのシルヴィア・カドゥフ)

 

「女性指揮者と共演すると、男性の時とは異なるものが引き出されるのを感じます。女性ならではの想像力や冒険心、新しいものに対する情熱が自然に伝わってくるのです。それが音楽を面白く、多元的なものにしてくれます」(ピアニスト、ガブリエラ・モンテーロ)

 

残念ながら私は、女性指揮者の音楽をほとんど聴いたことがない。しかし指揮の世界にも女性が多く登場することで、音楽そのものが豊かになるような予感がする。女性性とは何かを、音楽の面からも考えていければと思う。

 

2017年3月11日 於いて新宿ピカデリー
2017年日本映画
監督・脚本:荻上直子
出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子

 

2017年4月11日 j.mosa
 


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  • 2017.06.20 Tuesday
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  • 15:42
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