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    フォーラムをめぐる人々ーむさしまるのこぼれ話 その三

    • 2017.10.23 Monday
    • 14:29

    こんな味わいの日は、そうざらにはあるまいなと思えるほど濃い時間を過ごした一日だった。台湾映画の7時間、そのあとビールと餃子を囲んで映画好き3人の映画評。帰りの電車のなかでは、人々の日本語が異国語に聞こえた。オレ、台湾人になったんやろか?

     

    『非情城市』については、森さんに書いてもらったから、今回は『クーリンチェ少年殺人事件』にしぼりたい。でも一言だけ、主婦に戻ってスクリーンではもう出会えない、あのシン・シューフェンの不思議な風情とその風情をつつみこむメロディーの物憂げな美しさ、それと対照的な冒頭と最後の力強いリズム。こればかりは特筆しておきたい。歴史に翻弄される人々の、どっこいしぶとく生きますよ、と鼓舞するリズムなんだな、これが。

     

    さて『クーリンチェ』、これはまた見事といえばあまりに見事な作品だ。語りたいシーンは多々あるが、わたしにとってのこの映画の印象はほぼ2点にしぼられる。すなわち「暴力」と「少女」。

     

    まずは「暴力」だが、昭和世代としては、どこか中野電波高と朝鮮高校のすさまじい凌ぎ合いを彷彿とさせる。この暴力をブラジル映画の『シティ・オブ・ゴッド』と比べる人もいるだろうが、単純な比較はできないと思う。どちらも、植民地化を受けた国の少年たちの暴力ではあるけれども、混血社会である南アメリカの大都市のスラム街に巣くう暴力と、急激な近代化を余儀なくさせられた中国系台湾人の一般家庭の少年たちが抱える暴力とでは、位相がまったく異なるのではないのか?

     

    『クーリンチェ』を支えているこの暴力の背景には、アメリカン・ポップスに代表される米文化の強大な影響力と半世紀にわたる植民地支配の残響たる日本家屋がある(と思える)。和風の四畳半の部屋で聞くプレスリー… まるで昭和の日本だ。それだから、米文化を象徴する野球バットと日本文化の残響たる日本刀が、映画のなかで象徴的な役割を果たしている気がしてならない。

     

    もう一点の「少女」。映画のなかで「小明(シャオミン)」と名づけられた彼女は、何と形容しようか困惑するほど不可思議な女の子で、わたしにとっては「あの女の子」と匿名でしか表わしようのない抽象性をもっている。この抽象性を別の表現にすると、ある種のヴェールをまとっている、ともいえるし、リアリティの欠如、といってもいい。ともかく、彼女は“遠い”のだ。

     

    目の前に居ながら手の届かぬあちら側に居るような、そんな少女を好きになった少年が相手を自分に引き寄せたいと思うとき、彼女を生身の人間として感じたいとき、少年に可能なこと。それは、彼女を包むヴェールを引きちぎって暴力的にこちら側に引き寄せること、つまり彼女の生暖かい血を流させることじゃないのか? その血が流れるのを感じたとき、少年にとって抽象的な「女の子」が初めて現実的は「僕の小明」になるのではないだろうか?

     

    刺殺の決定的瞬間は、もちろん映画のクライマックスだ。たいていの映画ならスクリーン一杯に二人の顔がクローズアップされるところだろう。でも、ドン・ホセとカルメンのようにはいかない。遠景に映る二人の表情は判然としない。だから、観客であるわたしたち自身がその表情を想像するしかない。そして想像せずにはいられない。そんな風にわたしたち観客それぞれが自分の思い描く二人の表情を描くこと、それは二人になり替わることであり、主人公二人の生を生きること(部分的であれ)でもあるだろう。これも監督の仕業かと思うと、エドワード・ヤン、恐るべし!

     

    むさしまる

    フォーラムをめぐる人々―仲間と観る映画もいいものだ

    • 2017.10.10 Tuesday
    • 11:06

    仲間と観る映画もいいものだ

     


    映画はひとりで観ることが多いのですが、昨日は映画好きの友人ふたりと一緒に鑑賞しました。台湾映画の名作、『非情城市』と『クーリンチェ少年殺人事件』です。評判の高い映画ながら、私は2作品とも観のがしていました。24日の1日だけ同時上映があるとN本さんから聞き、すぐチケットを買いました。そしてむさしまるさんに情報を伝えたところ、彼も迷うことなく購入したというわけです。ふたりとも、上映時間7時間という長さに恐れをいだきながら、ではありました。

     

    仲間と映画を観る楽しみは、終映後のおしゃべりにあります。ああでもない、こうでもないと、作品について無責任にダベる時間がじつに楽しい。つまらない作品だと、いや、結構面白い作品でも、だいたいすぐに話題は拡散するものです。昨日の2作品はそういうわけにはいきません。語るべき内容が、あまりにも多いのです。これは、傑作である必須の条件でもあります。

     

    まるでドキュメンタリーを観ているような臨場感。台湾の現代史を学ぶ糸口に満ちている。なによりも陰影深い映像が素晴らしい。2作品に共通する要素は多くあります。そうそう、音に対する感性の豊かさも。東京国立近代美術館フィルムセンター大ホールの音響は、嬉しいことに、まことにいいのです。

     

    共通点は多いながら、この2作品は、ある意味で対照的な映画だと思いました。『非情城市』は、数多いエピソードが、じつに緻密に構築されている。音楽もそうで、ユーチューブから流れるメロディを聴くだけで(ユーチューブにアップされています)、映画のシーンが鮮やかに目に浮かびます。『クーリンチェ〜』は構築性をあえて無視することで、少年の思いもかけない殺人に、確かなリアリティを与えています。衝撃度は並ではありません。

     

    『非情城市』のカットのひとつひとつは、まるで絵のように美しい。小津安二郎の影響を喧伝されるはずです。ヤクザの抗争という暴力場面が多いにもかかわらずです。たとえば、九份という山上の街に女主人公が登っていくシーン。急坂であるため輿に乗り、主人公のトニー・レオンがあとに従っています。背景には遠く海が広がる。そして、懐かしく、美しく、また強靭な音楽。この場面で、私はもうこの映画の虜になりました。

     

    戦争が終わって日本人が去ったと思ったら、今度は本土から国民党がやってきた。台湾は50年間日本の支配下にあったわけですから、台湾の人たち(本省人)は中国本土の人たち(外省人)を相手に戦ったわけです。同じ漢民族でありながら。この矛盾は、戦後の台湾社会に深い影を落とします。1947年には、国民党(外省人)が本省人を弾圧・虐殺するという「二・二八事件」が起こります。本省人である主人公の一家は、この悲劇的な歴史に翻弄されることになります。

     

    誰かがこの映画を「台湾版ゴッドファーザー」と評しました。確かに家長を中心としたヤクザ一家の物語でもあり、面白さにおいて言いえて妙。しかし、抒情性、歴史性、そして芸術性、どれをとっても、はるかに上質の映画であることは間違いありません。

     

    もうひとつの傑作『クーリンチェ少年殺人事件』。これについては、一緒に鑑賞したむさしまるさんに語ってもらうことにいたしましょう。

    2017年9月25日 森淳

    フォーラムをめぐる人々ーむさしまるのこぼれ話 その二

    • 2017.10.10 Tuesday
    • 11:02

    成田空港に巨大な飛行機が飛び交って久しいというのに、なんで今更?といぶかる人も多いだろうけれども、先週は『三里塚のイカロス』(代島治彦監督)を見てきた。観客はざっと見積もって十人、ほぼ同世代の人々だった。大学紛争以降、狭山裁判や成田闘争などがクローズアップされた頃に、血気盛んな青年期を迎えた世代だ。わたしの近辺では、政治の動きにそこそこ興味があれば、どちらかの集会に身を置いたことがある人も少なくないはず。


    見終って、しばし茫然としてしまった。ちっちゃな箱庭のなかで、蟻んこのような自分が右も左もわからず、精一杯こぶしを突き上げて空港反対を叫んでいた… それも、すでに頭上をジャンボジェットが轟音をがなり立てているさなかに。


    映画は、さる左翼セクトの現場責任者の自省のことばとその姿を映すシーンで終わる。「自分たちの方針は間違っていた」。こんな終わりかたでいいのだろうか?との疑念が胸をかすめる。その一方で、三里塚の農村に嫁いだ女性たちの、現地の文字通り土に根差した生活から生まれることばに、安堵とも言い切れないが少し慰撫してくれる吐息が漏れた。


    リアルタイムの政治的運動の全体像をつかむことは本当にむずかしい。現場に行かなければ、運動の息吹は決して伝わらない。だけれども、現場だからこそ見えにくいこともある。懸命になればなるほど見えにくい。それを教えてくれたのがこの映画だった。

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