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    フォーラムをめぐる人々ーむさしまるのこぼれ話 その四

    • 2017.12.11 Monday
    • 20:38

    最初の映像は砂丘地帯を馬がゆく。馬上には黒い衣装の男、それと後ろに素っ裸の男の子。人を食ったような光景だ。やがて、とある村につく。村人はほとんど死んで、そこら中に死体がゴロゴロと転がっている。瀕死の男が一人いる、その男に向けて、くだんの裸の男の子が何のためらいもなく拳銃をぶっ放す。

     

    万事がこの調子だ。映画の題名は『エル・トポ』。主人公の男はガンマンで、名うての名射撃手と果し合いをして拳銃の王者になるというのが一応の筋のようだ(ただし前半の)。とはいっても、筋などどうでもいい、というのがこの映画の売りだろう。個別のシーンをそのまま切り落として額縁に飾るにふさわしい場面ばかりが目白押しだから。

     

    青い青い空、乾燥した砂丘、なぜかある小さな池、その中でパラソル片手の裸婦、ウサギの死体群、箱に両足を折り曲げて横たわる死体、両腕のない男と両足のない男… 今思い返しても、次から次へと映像がフィードバックする。とまれ、前半の最後は肉体的ハンディキャップを負った人々の一群が流れるシーンで終わる。

     

    このハンディを負った人々(同一人物群ではない)が後半でも重要な役割を果たす。出だしは山の洞窟の中。そこは社会から隔離された、被差別者たち(ハンディを負った人々)の隠れ家だ。その被差別者のなかの若い女と、洞窟で瞑想する外来者の僧侶とが近くの町に出かけ、退廃した町でさまざまな珍場面に遭遇するのが後半の筋立てのようなものである。

     

    ここでももちろん暴力が日常的に現れる、たとえば教会で、ロシアンルーレットのごとく、男の子が拳銃で自分の頭をぶち抜いたり、黒人奴隷が見世物娯楽のように馬に引かれて死んでいったりと。一方で、老齢の爛れたような娼婦群を筆頭とする退廃ぶりもすさまじい。

     

    被差別者の若い女と僧侶は夫婦となり、洞窟から町へ抜ける穴を掘り始めるが、完成した穴から町へと殺到する被差別者の群れは町の住民に皆殺しになる。モグラのような彼らは陽の当たる世界では生きてゆけない。『エル・トポ』とは「モグラ」の意味だ。

     

    この映画をトータルに論評することはむずかしい。とにかく、ある種の常識が破壊され、体のなかに眠っていた感覚が目覚めさせられる快感がある。暴力と退廃が通過した後に、未知の感覚に体を覆われているとでもいったらいいか。

     

    むさしまる

     

    フォーラムをめぐる人々―歳をとるのもいいものだ

    • 2017.12.08 Friday
    • 10:24

    歳をとるのもいいものだ

     

     

    歳をとるのもいいものだ。こんな嬉しい感慨を覚える映画に出会うことができました。春日井市近郊のニュータウンで、野菜70種類、果物50種類に囲まれて暮らす老夫婦のドキュメンタリー、『人生フルーツ』です。

     

    周りに何もない、まるで砂漠のようなニュータウンの造成地、その一角に300坪の土地を購入して50年。その土地は、雑木林となり、果樹園となり、畑となりました。ここで、まるで農夫のように暮らす主人公は、建築家の津幡修一さんと、妻の英子さん。90歳と87歳のご夫婦です。

     

    食事はもちろん、農作業や大工仕事など、ほとんど他人の手は借りません。その徹底したエコライフに感心したのはもちろんですが、私は津幡さんの仕事との関わりに興味を覚えました。

     

    彼は、日本住宅公団のエース建築士として、いま自らが住む高蔵寺ニュータウンを設計したのでした。可能な限り自然と調和させようとした彼のプランは、公団の合理主義・効率主義とは相入れません。大幅な修正を余儀なくされます。

     

    高蔵寺ニュータウン内の彼らの土地と家は、公団の、というよりは、日本社会の、機械的効率主義への異議申し立てのような気がします。津幡さんは、息をひきとる直前、伊万里市の小さな医療福祉施設の設計を依頼され、はじめて思うような仕事ができた、と述懐するのです。設計料は受け取りませんでした。

     

    「この人は、歳を重ねるごとにいい顔になってきたんですよ」と、英子さんは言います。柔和な表情で遠くを見つめる修一さんの顔は、夢を宿したいい顔です。そんな夫と60年余連れ添った英子さんの顔もまた、チャーミングでいい顔。歳をとるのもいいものだなぁ。ホントにそう思いました。

     

    風が吹けば、枯れ葉が落ちる。
    枯れ葉が落ちれば、土が肥える。
    土が肥えれば、果物が実る。
    こつこつ、ゆっくり。
    人生、フルーツ。

     

    樹木希林のナレーションも、また良かった!

     

    2017年11月30日 於いて飯田橋ギンレイホール
    監督:伏原健之
    編集:奥田繁
    撮影:村田敦崇
    音楽:村井秀清

     

    2017年12月7日 森淳

    楽しい映画と美しいオペラ――その77

    • 2017.12.07 Thursday
    • 01:04

    祈りは音楽の源泉か——真言声明とグレゴリア聖歌のコラボレーション

     


    祈りこそ音楽の源泉ではないか? 真言声明とグレゴリア聖歌のコラボレーションを聴いて、そう実感した。声明は日本音楽の、グレゴリア聖歌は西欧音楽の、それぞれ源流だといわれている。そのふたつが共演する? 大きな期待を持つことなく、ほとんど興味本位で、オーチャードホールまで出かけたのであったが。

     

    18時過ぎにホールに到着。すでに大人数の行列ができている。指定席なのになんで行列が? オペラやクラシックのコンサートでは考えられない。聴衆があまりに多く、一時に入りきらないのだった。東京でも有数の大ホールが、それこそ超満員。いったい誰が、このような「地味な」企画に興味を持ったのだろうかと、いまでも不思議でならない。

     

    第一部は真言宗の声明。「庭讃(にわのさん)」「唱礼(しょうれい)」「散華(さんげ)」「光明真言行道(こうみょうしんごんぎょうどう)」「称名礼(しょうみょうらい)」の5曲。それぞれ儀式の際に歌われるのだろうが、はじめて聴く身には、一括して「真言声明」として聴くほかはない。

     

    舞台の両袖から、金銀の刺繍に彩られた、華やかな法衣をまとった僧が登場する。ふたりは法螺貝を高らかに吹き鳴らし、別のふたりはシンバル様の楽器(繞(にょう)というらしい)を派手やかに響かせる。左右対である故、ステレオ効果満点である。2種類の楽器に先導されて、十人余の僧が登場する。絢爛豪華。見事な幕開けというほかない。

     

    先唱する僧も、斉唱する僧も、惚れぼれするような力強いバリトンである。もちろん、オペラなどの発声法であるベルカント唱法ではない。後の、謡い、義太夫、浪曲、歌謡曲などにつながる、喉を振り絞るような声。十分に歌いこまれた荘厳な美声に、すっかり引きこまれた。

     

    さて第二部のグレゴリオ聖歌。これはもう、天上の歌声という表現がぴったり。繊細で柔らかな十数人の歌い手の声が、まるで一本の線のように天に立ち昇る。ベルカント唱法ではもちろんないのだが、ルネサンス期に完成されたとされるポリフォニーは、もう目の前だと感じられた。

     

    圧巻は第三部である。声明とグレゴリオ聖歌のコラボレーション。これほど異質な音楽をどのようにコラボさせるのか。想像もつかなかった。ところが、それぞれがまったく関連のない曲を歌いながら、ひとつの圧倒的な宗教空間をつくりあげた! 地を響かせるような声明のバリトンの上に、軽やかに宙を舞うグレゴリオ聖歌の歌声。いったい誰がこのような組み合わせを考えたのだろう。

     

    コラボは2作あり、それぞれ以下のとおり。
    声明「露地の偈」/グレゴリア聖歌「異邦の者が我に逆らいて立ち」(交唱)、「主よ、御名によって」(詩篇第54編)
    声明「理趣経善哉譜」/グレゴリオ聖歌「第4ミサのキリエ」

     

    声明とグレゴリア聖歌に共通するのは祈りである。人間を超えた存在に対する祈り。神であれ、大日如来であれ、祖霊であれ、自然であれ、自らを超えた存在に対して、人は祈る。それは、人間が弱い存在であるからだ。自らの力ではどうにもならない出来事は多い。声明とグレゴリア聖歌が生まれた中世の時代ではなおのこと、人間の力は小さなものであったろう。祈りは切なるものであったはずである。オーチャードホールでは、その祈りの力をまざまざと体験することができた。


    2017年12月1日 オーチャードホール

     

    真言宗青教連法親会
    ミラノ大聖堂聖歌隊

     

    指揮:クラウディオ・リヴァ

     

    2017年12月4日 j.mosa

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