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    楽しい映画と美しいオペラ――その81

    • 2018.10.23 Tuesday
    • 21:07

    「事件」となった上映会——70mm版『2001年宇宙の旅』

     

     

    10月13日、京橋の国立映画アーカイブ(旧東京国立近代美術館フィルムセンター)に着いたのは朝7時過ぎ。ところが、館前にはすでに長蛇の列。なんと147番目だった。当日券の枚数は各回100枚(前売りが200枚)で、11時からの初回の上映会には入場することはできない。『2001年宇宙の旅』の70mm版上映の人気が高いとは聞いていたが、これほどとは!

     

    今年はこの映画が制作されてから50年。それを記念して、オリジナルのネガからポジをつくり、世界各国での上映が実現している。デジタル処理は一切していないというから、当時のままの映像を観ることができる。この情報を耳にして、チケットぴあで前売り券を買おうと思った。

     

    前売り券は9月1日の12時からの発売だったのだが、あっという間にすべての回(延べ12回)が売り切れてしまった。私も買えなかった。どうやら転売サイトが買い占めてしまったらしい。1枚2500円のチケットだが、オークションでは1万円を超えるものも出たという。悪質なサイトは締め出してもらいたいものだ。

     

    3時間並んで、やっと10時に、15時開映の整理券をゲットした。近くのシネスイッチ銀座で『日日是好日』を観て時間をつぶす(失礼!)。日本の自然のなかにゆったりと樹木希林さんがいて、心地よい映画ではあった。初日だったからか、出口にはぴあの調査員がいて、映画の感想を聞き出している。65点と答える。

     

    国立映画アーカイブのスクリーンは、大型映画館の標準的な大きさだろう。それが、手前にかなり湾曲している。70mm版の特色である。グラデーションの美しさや奥行きの深さが感じられるのは、アナログの強みではないか。音は多少の歪みがあるものの、大迫力。1968年当時のテアトル東京のスクリーンは、国立映画アーカイブのそれよりもさらに4倍の大きさだったというから、想像を絶する。

     

    さて、北海道から観にきた人もあったという異常人気の70mm版『2001年宇宙の旅』。テレビ画面でしか観たことのない私にとって、これは事件といっていいほどの上映だった。400万年前の猿が空中に放り投げた一片の骨。暗転して、それが宇宙船に変換される。音楽は、『ツァラトゥストラかく語りき』から『美しく青きドナウ』へ。映像と音楽が、これほど見事にシンクロした映画を私は他に知らない。大画面に大音量。開始時点ですでに、私は満足の極みにあった。

     

    50年前にはCGはまだ実用化していない。にもかかわらず、どうしてあのようなリアルな宇宙空間をつくり出せたのだろう。2013年のアカデミー賞監督賞をとった『ゼロ・グラビティ』は、宇宙描写の迫真性で専門家を驚かせた。『2001年宇宙の旅』は、それにけっして引けをとらない。不気味な漆黒の宇宙空間。その果てしない空間に吸い込まれる宇宙飛行士。また、飛行士が宇宙船のなかでジョギングするシーン。無重力のなかを螺旋状に走って、なるほどと、納得させられるが、どうして撮影したのだろうかと、これも不思議でならない。

     

    革新性は映像に止まらない。コンピュータの声紋認識、チェスとの対戦、人間との会話など、AIの進歩した現在でこそ珍しくはないシーンだが、これは50年前の映画である。キューブリックと、共同脚本のアーサー・C・クラークの先見性には驚くほかはない。AIの錯乱まで予言しているのだ。赤い目玉のようなコンピュータ、HALの不気味さは、私たちの未来に対する警告でもある。それにしても、あの目玉は怖い。

     

    黒い、大きな、壁のような物体——モノリス。人類の誕生期400万年前に地球に存在し、2001年の月にも存在する。地球外生命の実在を暗示する物体だが、一体モノリスとは何か。木星への飛行中に事故に遭遇した宇宙船の船長、ボーマンはその後どうなったのか。めくるめく色彩の最終シーンをどう解釈するか。難解度は増すばかりだが、最新の物理学、超弦理論で解釈はできないのだろうか、と、理数系にうとい私は勝手に想像する。

     

    『2001年宇宙の旅』は、私にとって、SF映画中ダントツの1位である。さらに、すべての映画のなかでも、5本の指に数えられるのではないか、と改めて思った。

     

    2018年10月13日 於いて国立映画アーカイブ

     

    1968年アメリカ映画
    監督:スタンリー・キューブリック
    脚本:スタンリー・キューブリック、アーサー・C・クラーク
    撮影:ジェフリー・アンスワース、ジョン・オルコット
    出演:キア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルベスター、ダグラス・レイン

     

    2018年10月21日 j.mosa

    フォーラムをめぐる人々ーむさしまるのこぼれ話 その七 青春の門(モン)

    • 2018.10.07 Sunday
    • 16:40

     

    今年も新宿に「台湾映画祭」がやってきた。

     

    去年は、午前10時開始の侯孝賢の「戀々風塵」を眠い目をこすりながら観たっけ。観客も15人程度だった。ところが今年はどうだ、回数券まで買って勇んで出かけた初回は、満員御礼で入場不可! その腹いせに(というほどではないのだが)、予定になかった映画「藍色夏恋」に足を運んだ。

     

    災い転じて福となすとはこのことだろうか、予想をはるかに上回る映画の出来映えだった。原題は「藍色大門」で、藍色は中国語で青色のこと。つまりは青春の門というわけだ。主演女優はグイ・ルンメイ、主演男優はチェン・ボーリン、どちらも監督(イー・ツーイェン)が街頭でスカウトした新人だという。二人の初々しさもひとつの見どころである。そういえば、上記「戀々風塵」の主人公二人も街で抜擢された若者だった(その後まもなく二人とも映画界を去っているが)。

     

    忘れられないシーンはいくつかあるが、その印象を少しでも納得してもらうには、舞台背景を少し知らなくてはなるまい。

     

    女子高校生のモンとリンは親友。リンは同学年のチャンに惚れていながら告白できないため、親友のモンに橋渡し役を依頼する。ところがチャンは誤解する、橋渡し役は口実で本当はモンが自分を好きなのだと。そして、次第にモンに惹かれてゆく。チャンはモンに告白する。しかしモンの答えはノーだ。「わたしは男に興味ない、同性のリンが好きなの…」

     

    さて、脳裏にこびりついたシーンをひとつふたつ。ひとつは、モンとリンが踊る場面。リンが大好きなチャンの顔の似顔絵を描き、それをお面にしてモンが被り、リンと手を組みゆっくりと踊る。モンの演じるチャンがリンのうなじ近くにしだれかかる、いつか、そのお面の男が自分に恋するとも知らずに… お面の下の素顔のモンはどんな表情をして踊っているのだろうか? 繰り返すが、モンはリンに対して友達として以上の、ちょっと危うい情愛を抱いている。青春期にある同性間、異性間の微妙な色合いの感情描写がこの映画の出色だ。

     

    もうひとつのシーンは、一部パンフレットに映っている。台北と思われる都市の街路樹の下を自転車で走る姿だが、但し書きがいる。グイ・ルンメイ演じるモンが笑顔を浮かべるのはこの前後だけで、それ以外は映画中の彼女の表情は一貫して硬い。苛立ったような頑なさで男子から防御壁を張っているように見える。浜辺でエイトビートの音楽に合わせて体をゆするシーンでいくらか表情を緩めることはあっても、笑うことは皆無だ。おそらく、映画全編はこの笑顔にいたるための序奏である。

     

    破顔一笑となったのはなぜか。その答えは、直前のチェンのセリフにあるらしい。男は好きでない、というモンに対して彼はいう。「いつか男を好きになってもいいと思ったときは、一年後でも三年後でもいいから、オレに最初に連絡してくれ」 自分の感情に最大限の敬意を払ってくれる人間がいることの安心感、この安らぎこそが彼女の呪縛を解いたのではなかったか…

     

    ここで、モンの笑顔を支える背景の美しさを言い添えておかなければならない。都会の街路樹の下を疾駆する男と女の自転車、と書けば、なんとはなしに映像的な想像が働くと思う。けれども牧歌的な美しさとは少し違う。二人の自転車の脇にはほかの高校生の自転車やら、バイクにまたがった兄チャンやら、タクシーやら路線バスやらが、これぞ雑踏といわんばかりにひしめいている。何とかまびすしい美しさか! ただし、流れる音は単旋律のピアノとモンのモノローグでむしろひそやか。

     

    「台湾青春映画史に燦然と輝く…」とのキャッチコピーは誇張じゃない。

     

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